フレーミング効果

 サインエンスの日本語ホームページに脳とフレーミング効果との関係が明らかになりつつあることが載っている。フレーミング効果とは、意志決定する際に、客観的状況が同じでも、伝え方(例えば、ポジティブかネガティブとか)が違うと、判断する側が違った判断をしてしまうということらしい。例えば、手術を受ける際に、医者から95%の確立で成功すると言われるのと、5%の確立で失敗するといわれるのでは、手術を受ける患者の受け取り方が違うといったことらしい。

ヒトの脳における気分や偏見と合理的な意思決定の関係


Frames, Biases, and Rational Decision-Making in the Human Brain
ヒトが行う選択は、選択肢が提示される様式に異常なほど左右される。このいわゆる「フレーミング効果」は、ヒトの合理的・実利的な判断の大きな妨げになるが、その背景にある神経生物学的メカニズムは未だ不明である。われわれは今回、フレーミング効果が特に扁桃体の活動と関連していることを見出した。このことは、一方に偏った意思決定には、感情系が重要な役割を果たしていることを示唆している。さらに、複数の被験者において、眼窩側および内側の前頭前野の活動から、フレーミング効果に対する感受性の減少が予測された。今回の知見は、ヒトにおける選択のモデルに感情プロセスを組み込むことの重要性を強く示唆しており、さらに脳がこのようなバイアスの影響をどのように調節して、合理的な意思決定へと近づくかを示唆している。

 ヒトの脳は、コンピュータのように、与えられたプログラムに沿って着実に計算を実行するようにはできていないという話しを読んだことがある。脳の活動の大部分でノイズが発生していて、そのノイズが、何らかの役割を果たしているらしい。意志決定と感情系のつながりは、それらを解明していく手がかりになるかもしれない。
 多くの脳科学者が、クオリアというかたちで、脳が物事を記憶しているといっている。茂木健一郎氏によると、このクオリアはある質感だという。脳は、ただ単語を記憶しているだけではなく、その単語につながるエピソードの中で感じ取ったイメージや感情が合わせて記憶されているらしい。われわれ人間は、そのクオリアをもとにして、言葉を話したり、考えたりしている。意志決定においてもクオリアが何らかのかたちでかかわっている可能性はあるだろう。客観的判断を行うことが如何に難しいかがわかる。
 茂木氏によれば、ふつう、人は、言葉の意味をいちいち考えながら話しているわけではない。いやそうではないと思われる方もいるかもしれないが、自分に照らし合わせてみると、間違いなく言葉の意味を考えて話す場合は、非常に少ない。日常の会話では、ほとんど皆無と言っていいかもしれない。逆に、言葉の意味を考えながら話すと言うことは、非常に労力がいり、ストレスの原因になる場合が多いといって良いと思う。意志決定しなければならない状況では、入ってくる情報を自分が持っているクオリアに照らし合わせながら、慎重に判断しようとする意識が働くような気がする。そうした場合、言葉の意味以外の記憶が、良い意味でも、悪い意味でも影響してくるように思う。
 時々、直感による判断は危険だという声を聞くことがある。多くの場合は、悪徳商法の宣伝や健康食品ブームにのった誇大広告などに対する対応に関してだ。しかし、それらの情報は、言葉の意味を考えながら聞いているわけではない状況で聞いたり見たりしているため、ほとんどの人が直感に頼ってその情報を判断してしまうのではないだろうか。冷静な判断とか、客観的な判断は、時として働かない方が多いのかもしれない。われわれが、これらの情報を正しく判断できるようになるには、そのものをクオリアとして記憶するときに危険性を感じ取れる感性を合わせて記憶していく必要があるように思う。クオリアはいったん記憶されると書き換え不可能というものではなく、常に更新できるらしい。しかし、すべてが更新されるのではなく、子どもの時など過去に記憶したものも反映したかたちで更新される。この脳の仕組みをある程度理解し、クオリアの質を高めるのが最も良い方法に思える。