EUの環境指標

 白田秀彰著「インターネットの法と慣習 かなり奇妙な法学入門 [ソフトバンク新書]」から引用した英米法と大陸法の歴史的背景イギリスの法と慣習 を踏まえて見ると、EUの環境対策に関して、今までと別の見方ができるかもしれない。例えば、NEDOが出した海外リポート「EU 2006環境関連指標−ヨーロッパの環境保護政策の進捗状況」で紹介されているEUの環境指標の見方。2005年に報告されたユーロバロメーターの調査によると、

全回答者の85%は「為政者は、経済政策や社会政策と同じくらい、環境問題も重要に取り扱うべきだ」という意見だった。その上、実に88%もの市民が、「為政者は経済や雇用問題のような別の分野の事案を決める際にも、環境問題を併せて考慮に入れるべきである」と考えていた。さらにEU 市民は、「もし経済競争と環境保護がトレードオフになる場合は、環境保護の方を優先させる」と答えた(63%賛成、24%反対)。

という結果が出ており、この市民の考え方は無視できないことになる。なぜなら、これらの考えはEU各国の慣習の上で判断された可能性が高いからだ。日本のようにただ不安を感じるとかメディアに流されて意見を述べているだけではない、歴史の重みがそこに存在する可能性がある。よく、EUでは、予防的なアプローチが前提になるといった意見を聞くが、予防的なアプローチは手段であって、EU各国の市民の意見ではない。従って、適切な政策が実行されれば、彼らの意識が次の段階に進む可能性は高いと思う。予防的なアプローチは、彼らにとって最適な方法ではないことは、おそらく認識されていると思う。
 「EU 2006 年環境関連指標」には、10種類の指標があり、この指標を見るとEUの環境対応がどの段階なのがよくわかるようになっている。各指標は、色で対応段階の進捗を分けている。赤は、対応不足。黄色は対応不充分、そして、青は順調に対応できていることを意味する。それぞれの指標に関しては、個々で見て欲しい。
 この指標のなかで面白いのが、「輸送量」という指標。EU は、経済成長と輸送量の増加を、切り離すという目標を立てている。この指標に関しての進捗状況は赤信号なのだが、この指標、環境対策の進捗を一目でみられる良い指標だと思う。普通に考えれば、経済が成長すれば輸送量が増えて当然なのだが、環境問題を考えた場合、ここに工夫がないと、何れ破綻がくる。日本でも同じような指標が使われているかはわからないが、もし、使われていないのであれば、ぜひ採用して欲しい。
 そして、もう一つ。先週の松永さんのアグリ話で紹介されている農地と住宅の間に緩衝地帯を作るかどうかの議論。細かい内容は、松永さんのレポートを読んでもらえばわかると思うので省略して、ここでは、イギリス人の市民はこの問題をどうとらえているのだろうかということを推測してみたい。緩衝地帯を設けるかどうかに関しては、意見がまっ二つに分かれているみたいだ。その状況下で、王立委員会は緩衝地帯を設ける方向で考えるべきとの意見を出し、政府機関は、その必要性は現時点ではないとした。
 この状況をイギリス人はどう判断しているのであろうか。おそらく、政府機関の意見が最終意見だとは思っていないと思う。そして、政府の政策を厳しい目で見守る姿勢をとるのではないかと思う。つまり、新しい対応の仕方に関しては、ある時間をかけて判断し、修正を加えていけばよいと考えているのでは無いだろうか。政府が判断すればすべて終わりとはならないような気がする。それが、英米法を持った国の対応なのだと思う。
 EU委員会を含め、EU諸国の環境対策を見る場合、その時点での判断はあまり有効ではない気がする。時間を掛けて修正され、実績が上がってきた段階で判断すべきではないだろうか。えてして、EUの政策は実験的であったりする。