イギリスの法と慣習

白田秀彰著「インターネットの法と慣習 かなり奇妙な法学入門 [ソフトバンク新書]」からの引用。

 イギリスは「法の支配」(rule of law)という言葉で示されるように、王様(行政部&立法部)が法のチェックに従っていたけど、17世紀末の名誉革命のときに議会(立法部)が一番エラい、ということにした。で、現在でもイギリス議会は、法律でどんなことでも決めてしまえる。それがどんなバカげた法律でも、司法部はそれを破ることができないということになっている。だいたい、最高司法機関が貴族院(議会)の一部として配置されているという仕組みが、議会が一番エラいことを何よりも示している。恐いよねえ。
 でも、大丈夫。伝統とか格式とかそういうものでイギリスを特徴づけてしまうのは安直だけど、イギリスの立法は、妥協(compromise)と穏健さ(moderation)と常識(common sense)を重視することを基本路線としている(ように見える)。それは具体的には、まとまった立法をするときには、必ず判例法を基礎にして、これを整理する形で立法することに表れる。十分に検証済みのコードを整理するのが大規模立法なわけ。ちょっとした立法をするときには、二つの方法がとられるように思う。一つは、バグ・フィックス。判例法が長い年月を経て発展した結果、ヘンな状態になってしまうことがある。で、このヘンになった部分を法律で修正する。もう一つはパッチ。一般的でない事態のときには、その事態に対処するための立法が行われる。基本的に検証済みの判例から法律を作るのだから、バカげた法律ができる危険は低い。間接的に「法の支配」は効いているわけ。

 昨日引用した部分では、歴史上司法部がうまく立ち回っていたという話しだった。現在のイギリスでは、立法部(議会)が最高の権威を持っているらしい。しかし、立法を行う手順のなかに「法の支配」が効いているみたいだ。そして、もう一つ大事なのが慣習の部分。

 付け加えて、こうしたすべての立法の背景に、「だって、当たり前じゃん」という常識が存在する。たとえば、私はどこかのネット上の記事で「イギリスには該当監視カメラがいっぱいある」「プライバシーの意識はどうなっているんだ」というような内容を読んだことがある。確認していないので判断はできないが、推測するに「外を歩いてりゃ、誰もがその人のことを見るだろう」「なにかの間違いで逮捕されたとしても、法は自分を守ってくれるはず」という、彼らなりの「常識」が働いている可能性が高いと思われる。逆に、伝統的かつ常識的に私的空間である住宅への侵入(intrusion)や監視(surveillance)については絶対に譲らないのではないか。この常識(common sense)への信頼がコモン・ロー(common law)の核心であろうと思う。

 イギリス人は、コモン・ローに基づいた常識(コモンセンス)を重要視しているというのである。判例に基づいた常識がイギリス人ひとりひとりの判断材料となっている。英米法の判例主義がここで顔を出している。
 EUの場合、英米法大陸法かと聞かれれば、おそらく大陸法だろうと思う。しかし、EUにイギリスが入っている限り、英米法の要素も加味されているはずだ。環境に関する規制を見ていると大陸法的な決め方(かなり時間がかかっていることの推察)だが、今後英米法に伴う見直しが行われる可能性は高いのではないかと思っている。