松永和紀さんの存在

 松永和紀さんの最新刊「踊る食品の安全−農薬から見える日本の食卓」を先日購入した。松永さんに関しては、FOOD SCIENCEの「松永和紀のアグリ話」と本を読むぐらいしか接点はないが、専門知識が必要な農薬の話題を一般の我々にわかりやすく解説してくれる。豊富な知識と丁寧な取材をもとに書かれた文章は、説得力があるし、何よりも文章の構成がよく、読みやすいものになっている。最新刊でも、はじめに、わさび栽培に農薬が使えない理由をさらりと書いて、読む人間をすっと本の中に導いてくれる。
 ルポルタージュの中には、ルポライターの主張が強すぎて、読者を不快にさせるものが多々あるが、松永さんの作品は常に読者の立場で展開されるので、違和感を感じない。松永さんのようなルポライターが、各科学分野に一人か二人いてくれると、偏見や思いこみで科学を見てしまうのではなく、きちんと自分で調べて科学の話題を理解できる人間が増えてくれるのではないだろうか。
 松永さんの本のもう一つの特徴は、参考文献のコーナーにある。参考図書だけでなく、参考にできるホームページのアドレスも記載されている点だ。前作「食卓の安全学」の参考文献コーナーは、大いに役立った。その本を読んで終わるのでなく、読んで疑問に思ったことをさらに調べることができるように工夫がされている。今回の作品でも同様の楽しみが待っていると思うと楽しみだ。

踊る「食の安全」―農薬から見える日本の食卓

踊る「食の安全」―農薬から見える日本の食卓