炭水化物の必要性

 高橋久仁子著『「食べものの神話」の落とし穴』からの引用。

 たくさんの米飯を少量のおかずで食べていた頃、「ご飯は残してもいいからおかずは食べなさい」と言われたものでした。炭水化物であるデンプンが多いご飯よりも、タンパク質や脂肪の多いおかずが重要視されたのです。
 時をへて、過剰なほどのおかずを食べる人が増えた今、逆に「もっと穀類を食べよう」が大切になりました。一日に必要な熱量の半分くらいを穀類から摂取することが、脂肪やタンパク質の過剰摂取を防ぎ、ひいては生活慣習病の予防に役立つからです。健康の維持・増進に配慮した食生活の基本は、主食としての穀類を中心に、適度な量の肉、魚、卵、牛乳、大豆、果物、そして豊富な量の野菜や海草を組み合わせて食べることです。

 農林水産省平成16年度食料自給率レポート我が国の食料事情を見ると、昭和35年の食事における熱供給量の比率を見ると、穀類59.2%(米48.3%、小麦10.9%)、畜産物3.7%、油脂類5%、魚介類3.8%で、半数以上を穀類に依存している。ところが、平成16年になると、穀類36.1%(米23.4%、小麦12.7%)、畜産物15.4%、油脂類14.2%、魚介類5.1%と、穀類の摂取量が30%以上減っていることがわかる(この数値は熱量換算なので、質量換算ではありません)。「ご飯よりもおかず」と言われていた頃は、十分に穀類を摂取していたのである。ちなみに、昭和35年頃は、肉を月に2〜3回程度採ったに過ぎなかった。現在では、肉料理を食べない日は内という人が多いのではないだろうか。この食事の変化が、「もっと穀物を食べよう」に変化したわけだ。油脂類やタンパク質の過剰摂取を抑えるためにも、穀類を多めにとり、一度に食べる肉や油の量を減らした方が健康に良いことになる。

 脳がエネルギー源として利用できるのは極端な飢餓状態が長く続かない限り、通常はブドウ糖です。そのため、血液中には常に一定量のブドウ糖が含まれるように調整されています。血液中のブドウ糖を血糖といいますが、炭水化物を含む食事を摂取していれば血糖は穀類やイモなどにたくさん含まれるデンプンや、砂糖(ショ糖)などの炭水化物から供給されます。
 意図的に炭水化物を食べないとか、数日間、絶食すると、まず、はじめに肝臓中のグリコーゲンが分解されてブドウ糖になります。肝臓のグリコーゲンがなくなると今度は筋肉のタンパク質が分解されてアミノ酸になり、アミノ酸からブドウ糖が作られ、血糖になります。たっぷりため込んだ体脂肪からブドウ糖が作られる経路があれば好都合なのですが、残念ながらそれはなく、炭水化物を食べないと筋肉のタンパク質を壊してブドウ糖が作られるのです。極端な食事制限で減量すると体脂肪だけでなく、筋肉も減ってしまうのはこのためです。なお、筋肉に蓄えられているグリコーゲンが血糖維持に使われることはありません。

 脳が正常に働くためには、ある一定のブドウ糖が必要であり、そのブドウ糖は、穀類やイモに含まれるデンプンやショ糖を分解して得るのが一番効率がよいのだろう。砂糖の場合、吸収が速いため、即効性があるが、過剰摂取も起こりやすいのではないだろうか。そう考えると、穀類から摂取するのが一番良さそうだ。
 「朝食をちゃんと食べよう」というなかには、「脳を活性化させるために、穀類を取ろう」という意味も含まれているのかもしれない。タンパク質は、体の中でエネルギー源としてよりも、他の役割で重要な働きをしている。油脂類は、水に溶けにくいので、炭水化物のように、すぐに分解してエネルギー源にならない。したがって、ヒトが、エネルギー源として一番有効に使用できるのが炭水化物になるのだろう。表現があっているかどうかはわからないが、炭水化物がエネルギーを得る常備食に対して、油脂類は災害時の非常食といったところか。
 ここにも、書かれているように、体脂肪は簡単には落ちない。病気をして、入院し、体が動かせない状態になると、1ヶ月もたたないうちに歩けなくなる。これは、筋肉を使わないからだといわれるかもしれないが、筋肉のタンパク質が分解されて、ブドウ糖が作られるからでもあるような気がする。そして、確かに、脂肪は最後まで減らない。どうして、それが分かるかというと、リハビリをして、筋肉がつきはじめ、食欲が出てくると、すぐにもとの体重に戻ってしまう。やせた筋肉が戻っただけなのだ。高橋先生も書かれているように、運動する以外に体脂肪を落とす方法はない。少なくとも穀類を減らすことで、体脂肪は落ちないと思う。