魚の性転換

 桑村哲生著「性転換する魚たち」(岩波新書)からの引用。どうしても本が見つからず、図書館で借りて内容を確認した。魚の性転換には3タイプが存在するらしい。一つめは雌性先熟のみのタイプ(カザリキュウセンなど?)、二つめは雄性先熟のみのタイプ(クマノミなど?)、そして最後が双方向性転換タイプ(ダルマハゼ・オキナワベニハゼ・ホンソメワケベラ・アカハラヤッコなど)である。()内に?があるのは、この逆が起きていないことを証明するのが難しいので著者は付けたといっている。

 まず魚類の性転換の際には、体内でどのような変化が進行しているのだろうか。例えば、クロダイは幼魚のときは卵巣部分と精巣部分が合体した両性生殖腺をもっているが、まずは精巣が成熟してオスとして機能し、大きくなるとメスに性転換する。その際には、体内ではホルモンが重要な働きをしている。まず脳下垂体から分泌される生殖腺刺激ホルモンの血中濃度が上昇する。このホルモンが生殖腺の細胞中の芳香化酵素(アロマターゼ)を活性化し、雄性ホルモン(テストステロン)を雌性ホルモン(エストラジオール)に変える化学反応を促進する。これらの二種類の性ホルモン、テストステロンとエストラジオールはお互いに分子構造がよく似ている物質なのである。そして、雌性ホルモンの血中濃度が上がると、肝臓で卵黄前駆物質(ビテロゲニン)の合成が進み、それが卵巣に到達して卵細胞が成熟していく。逆に、精巣部分は退縮していくのである。
 社会的地位の変化によって性転換する場合は、他個体との関係の変化が脳を刺激し、脳からホルモンが分泌されて、やがて生殖腺に影響を与えると考えられるが、脳で何が起こっているのかについてはまだ詳しいことはわかっていない。
 性転換は海産無脊椎動物のさまざまなグループでも知られている。魚類とは逆に雄性先熟の場合が多く、たとえば、食卓にのぼるカキやホタテガイ(軟体動物)やアマエビの仲間(節足動物・甲殻類)は、オスからメスに性転換する。一方同じ甲殻類でも小型のタナイス類などには雌性先熟の種がいる。

 このように、海に生息している魚や無脊椎動物の中には、性転換を自然におこなっている種が多々あるみたいだ。この本は2004年に出版されているが、著者は1970年代からこの研究を行っている。つまり、環境ホルモンが騒がれ始める1990年代よりも前にこういった事実は生物学の世界で知られていたことになる。特に、魚の性転換の3タイプ目は、多くの日本人研究者によって発見されたと著者は書いている。生物学の中でも分野が違うといわれてしまえば何ともならないが、環境ホルモンを研究していた人たちがこうした事実を知らなかったとはとうてい思えない。
 昨日のためしてガッテンの最初の質問コーナーで魚の共生を説明するのに、クマノミとホンソメワケベラの映像が流れていた。テーマは「アジ」だから環境ホルモンとはまったく違うものだが、性転換する代表格の魚の映像を「環境ホルモン」をテーマにした次にすぐ流していたことになる。制作者はあまり環境ホルモンを知らないか、まったく違うチーフが担当したのか、映像を見ながら違和感を感じた。