「フェルマーの最終定理」訳者あとがきから

 ようやく、フェルマーの最終定理を読み終えた。訳者の青木薫さんが、あとがきで、こう述べられている。

 本書の書き方で私が好感をもったのは、日本人研究者と女性研究者の取扱いである。物理学の世界でもそうなのだが、地理的に離れているせいもあってか、西洋の著者は日本人の業績をしかるべく取り上げない傾向がある。しかし本書は違う。谷山−志村予想はワイルズの仕事の目標そのものだからこれを取り上げるのは当然としても、谷山さんの残念な死、志村先生の尽力、それに当時の社会状況などが生き生きと描かれていて、日本人にとっても興味深い記述となっている。また、女性研究者の取り上げ方も並々ならぬ好意的な(というより、正当な、と言うべきか)もので、同姓としてうれしく思った。こうしたマイノリティ(人種、性別)への視線は、著者のサイモン・シンがインド系イギリス人であることと関係があるかもしれない。

 谷山−志村予想に関しては、Ⅴ章で扱っている。また、女性数学者に関しては、文庫本のp.171〜p.186まで、フェルマーの最終定理の証明に貢献したソフィー・ジェルマンを中心に女性数学者の歴史が簡単に述べられている。
 訳者が語っているように、日本人研究者と女性研究者に対するサイモン・シンの扱い方は、欧米人のそれとは異なっているのかもしれない。ただ、女性に関しては「ダ・ヴィンチ・コード」でも、いかに歴史上で女性差別があったかが述べられているように、欧米においてもこうした風潮が出来つつあるとの見方もできると思う。
 キリスト教信者やイスラム教信者の人たちが、宗教を分離して歴史を語ることは難しいと思う。サイモン・シンが宗教信者であるかどうかは知らないが、第3の世界から冷静に数学の歴史を見ている部分は好感がもてるし、変な思いこみをしないで読めるので非常におもしろかった。
 このフェルマーの最終定理は、数学が解っていなくても物語として十分読める。ぜひ、高校生あたりの推薦書として取り扱って欲しい。夏休みに読むのに最適な本だと思う。