「奪われし未来」と「沈黙の春」に対する批判

 松永和紀のアグリ話に、アメリカやヨーロッパで「奪われし未来」や「沈黙の春」に関して、批判がおこなわれていることが、載っている。全文はここをクリック。

 内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)の危険性をいち早く訴えたと世間では評価が高い「奪われし未来」(原題:Our Stolen Future)が出版されて、今年で10周年だという。わざわざ“世間 では”と書いたのは、米国の科学者団体が最近出したこの10年の 総括が、痛烈な内容だったからだ。
(中略)
 「奪われし未来」の10年目の総括を先月発表したのは、米国の 科学者団体「The American Council on Science and Health」 (ACSH)。のっけから「科学推理小説」と表現し、「筆者たちが脅したようにはなっていないよ」と説明している。

 また、「沈黙の春」に関しては、松永さんも安井先生もそれなりの評価をしているが、松永さんが言うように、

沈黙の春」が、化学物質を排出したり分解したりする生物の機能を軽視し過ぎた

だと思う。それにしても最近の欧米での評価は強烈である。「沈黙の春」が元となってDDTが各国で禁止されてたことにより、マラリアに感染した多くの子供たちが亡くなっている事実をとらえて、

「Rachel Carsonの生態学的大虐殺」

と表現しているメディアもあるらしい。松永さんは、日本でこうした見直しの議論が起こっていないのはおかしい。依然としてバイブル扱いしていることに疑問を呈している。
 ほんとにその通りで、間違っていた部分を修正しなければ新たな動きは生まれない。この部分を市民団体ももう一度考えて欲しい。悪者を最初から決めつけ、証拠が出てくるまで調べるといった手法は、科学的ではないし、いくら予算があっても足らない。子供が切れるとか、シックハウス症候群の問題など、生活の身近な問題を解決していくには、大胆な推論ではなく、時間はかかるが、着実に原因を究明していくほかないのである。そして、調査された内容に関しては、受け入れる頭の柔軟さを持ってもらいたい。そうしないと世の中は良くなっていかないと自分は思う。フェルマーの最終定理の証明に大きな影響を及ぼした谷村−志村予想でも提唱した当初、世界の数学者たちは見向きもしなかった。しかし、その予想を一つ一つ検証していくことでだんだんと信じられるようになったのだ。
 環境ホルモンの場合、5年をかけてその実証作業を行なわれてきた。その中で、どうも人工物よりもほんもののホルモン物質の方が内分泌かく乱作用が強く、人工物は人に対してそれほど影響をおよぼさないだろうという結果が出たのだ。
 欧米でも「奪われし未来」や「沈黙の春」に対して批判が集まっていることを考えると、そのうち、市民団体の見方は、グリーンピースぐらいしかいなくなるかもしれない。その前に、正しい判断をお願いしたい。