川の長さと水源から河口までの直線距離の比はπ?
- 作者: サイモンシン,Simon Singh,青木薫
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/05
- メディア: 文庫
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今読んでいるサイモン・シン著「フェルマーの最終定理」(新潮文庫)に面白い話が載っていたので紹介する。
ピュタゴラスは自然現象を支配する数学規則をはじめて明らかにし、数学と科学とは基本的なところでつながっていることを示したのだった。科学者はこのとき以来、あらゆる自然現象からでも数がひょっこり顔を出すことがわかってきたのである。そんな例を一つ挙げよう。曲がりくねった川の長さを測るために、ある数が役に立つのだ。ケンブリッジ大学教授で地球科学者のハンス・ヘンリック・ステルムは、いろいろな川の実際の長さと、水源から河口までの直線距離との比を求めてみた。その比は川ごとに異なっていたけれども、平均すると3よりも少し大きい値になることがわかった。ということは、ある川の実際の長さは、直線距離のおおよそ三倍になるということだ。実をいうと、この比はほぼ3.14なのである。これは、π、すなわち円周と直径の比の値に近い。
πはもともと円の幾何学に由来する数だが、これが科学研究のさまざまな曲面に繰り返し顔を出す。川の長さの比の場合であれば、πがここに登場したのは、カオスと秩序とのせめぎ合いの結果なのである。アインシュタインが最初に言い出したことだが、川はつねに曲がろうとする傾向をもっている。というのは、少しでもカーブがあれば、そのカーブの外側では流れが速くなって浸食が進み、カーブはますます急になる。そして、カーブが急になれば、外側の流れはますます速くなる。こうして浸食が進めば進むほど、川はどんどん曲がるという循環が起こる。しかしその一方で、カオスを切りつめようとする自然のプロセスも存在する。カーブが急になるということは、元の流れに対して折り返すことだから、そこにバイパスができやすくなる。バイパスができれば川はまっすぐになり、湾曲した部分は三日月湖となって川のわきに残される。対立するこれら二つの要因がバランスをとることによって、川の実際の長さと、水源から河口までの直線距離との比の平均値がπに近づくのである。とくにπに近くなるのは、シベリアのツンドラ地帯やブラジルのような、非常になだらかな平原を流れる川の場合だ。
数学も歴史を踏まえて語られると非常に面白い話になる。この「フェルマーの最終定理」は、紀元前のピュタゴラスからの数学の歴史をふんだんに織り交ぜられていて、難しい数学の話を飽きずに読み進めさせてくれる。ピュタゴラスやフェルマーがどういう人物だったのか、また、何を発見してきたのかを時代に沿って説明してくれている。
ただ、数式や定理を教えるだけではなく、物語として数学を教える授業があっても良いのではないかと思った。まだ、読み終えていないがお勧めの本です。
最近、「脳の中の幽霊」やこの「フェルマーの最終定理」などインド人が書いた本を何冊か読んでいるが、難しいと思われる話をやさしく、しかも豊富な情報を駆使して書かれている本が多い。サイモン・シンの本は全部読んでみたい。