脇阪紀行著「大欧州の時代」−ブリュッセルからの報告−(岩波書店)

大欧州の時代―ブリュッセルからの報告 (岩波新書)

 冷戦後、欧州が新秩序の構築へ踏み出してから10年余りがたっていた。単一通貨ユーロの流通、地域紛争の解決に向けたEU部隊創設、地球温暖化防止のための二酸化炭素排出権取引市場の設立といった具体策を、EUは次々に結実させていた。
 その中でも特筆すべき出来事は、ポーランド、ハンガリー、チェコなど中東欧を中心とした10カ国を2004年5月、EUに迎え入れたことだろう。冷戦時代、鉄のカーテンで隔てられていた国々のEU加盟によって、東西欧州は再統合され、加盟25カ国からなる「大欧州」がその姿を現した。
 時代を画する、さまざまな政策や政治決定の舞台となったのが、ブリュッセルである。EUの基本政策はもちろん加盟国が定めている。だが新時代を切り開く意志と能力を持つ人材・組織がこの街にあったからこそ、これだけ大きな成果を達成できたことを忘れてはならない。
 人口約4億6000万人、米国を上回る世界最大のマーケットを持つに至った大欧州のあり方は、21世紀の世界に大きな影響を与えるのは間違いない。

 勉強不足だったが、EUの主要機関はブリュッセルに集約されているらしい。この本は、自分が知りたかったEU像をやさしく解説してくれている。新聞やテレビのニュースでは、断片的にしか欧州の情報が入ってこない。EUが何を目指しているのか、なぜ、EUが化学物質に関して予防的処置を推進しようとしたのか、フランスなどで起きている若者の反抗がなぜ起きたのか。
そんな素朴な疑問に答えを導く手助けをこの本はしてくれる。ぜひ、読んでもらいたい本である。
 「国家の品格」、『「みんなの意見」は案外正しい』、そしてこの本で解説されているEUの取り組みは、同じ現代の問題点にどう向かっていくべきかを提案し、向かう方向を示そうとしている。『「みんなの意見」は案外正しい』はアメリカの対応を紹介しているし、「大欧州の時代」は、EUの対応を紹介している。3冊読んでみると、はっきり言って、「国家の品格」が一番具体案にかけているし、掘り下げが足りない気がする。アメリカやEUの対応は、やはり日本よりも一歩も二歩も進んでいるような気がする。特に、この本で紹介されているEUの取り組み方は、世界の新たな方向性を示していると感じた。EU構想がのぼってから50年余り経っているが、その間に試行錯誤を繰り返し、正しい方向に導こうと努力している姿がここにはある。