佐々木俊尚著「[http://d.hatena.ne.jp/asin/4166605011:title=グーグル Google]」

 グーグルは、強力な広告ビジネスを背景に、古い世界の秩序を壊し、伝統的なビジネスを破壊しようとしている。
 グーグルは、ロングテールによって中小企業を再生させ、新たな市場を創出しようとしている。
 グーグルは、人々の情報発信を手助けし、企業や政府などの強大な権力と同じ土俵に上がらせようとしている。
 しかしその一方で、グーグルはそれら新しい秩序の中で、すべてをつかさどる強大な「司祭」になろうとしている。それは新たな権力の登場であり、グーグルにすべての人々はひれ伏さなければならなくなるかもしれない。
(中略)
 なぜなら、この本で私が描こうとしたのは、インターネットの進化そのものであるからだ。プレーヤーは別にグーグルである必要はなく、マイクロソフトでもヤフーでも構わない。
 グーグルが退場する日が来れば、おそらく他の企業がグーグルの座を奪い、すぐさま第二代司祭として君臨することになるだろう。 
 あとがきから引用

 この引用や副題(既存のビジネスを破壊する)からのイメージだと、著者は、グーグルやインターネットに対して、負のイメージを持っているかのように感じられるかもしれないが、決してそうではない。第二章から第四章に紹介されている事例は、零細企業や中小企業に新たな希望をインターネットが与えていることを紹介している。
 グーグルは、ロングテールをターゲットに広告ビジネスを展開している。紹介されている企業もまさしく企業の中のロングテールである。そのロングテール企業が、通常のテレビや新聞、そして雑誌広告を利用することは、オーバースペックになり、費用対効果を望めない。そのため、近隣の顧客をターゲットとするしかないが、近隣の顧客だけでは、商売が成り立たない。こうした矛盾をグーグルのアドセンス広告が解決してくれている。グーグルは、検索エンジンで特定の目的を持ってインターネットに入ってくる顧客に向けて、適切な広告を載せる。顧客は、求めているものがそこにあるかもしれないと思って、広告をクリックする。この顧客自体もロングテールなのかもしれない。
 グーグルは、このロングテールの部分に新たな市場を築いた。今まで、テレビや新聞などのメディアがターゲットとして扱っていた市場とは明らかに違う。しかし、インターネットを利用できる環境が整ってくると、個人の自由度が上がり、それぞれが望んでいるものを求めるようになる。検索エンジンの精度があがれば、なおさらその方向は強くなる。グーグルは、その検索の精度を人海ではなく、コンピュータを使って行っている。これは、圧倒的にコストを抑えた方法で検索エンジンの精度を高めていることになる。
 また、グーグルは、すべて無量でサービスを提供し続けている。今までのメディアが有料であった(民放テレビだけは無量だったけれども)ことを考えるとグーグルが提供しているインターネットはまさしく無量のメディアということになる。
 人の数は有限であるから、今までのメディアが持っていた市場から人々は無量であるインターネットの市場に流れていく。そして、今まで権力を維持していたマスメディアに変わって、グーグルなどのインターネットサービスを提供している企業が権力を握ることになる。
 こうした流れは、もう止められない気がする。そして、この権力の移行は、当然の流れだと思う。「ウェブ進化論」の梅田氏は、この部分の移行に10年前後かかるだろうと述べている。しかし、各企業の見方は、かなりシビアで、ある自動車会社などでは、もう、テレビのコマーシャルが、インターネットでのプレスリリースよりも効果がなくなっていることに気づいている。慣例で、各メディアに対するプレスリリースを30分早く行っているが、顧客はインターネットのプレスリリースを先に見に来ると公言している。
 今、インターネットの普及で、明らかに世界が変わり始めている。「ウェブ進化論」と「グーグル」はそのことを私たちに伝えてくれている。