環境ホルモン訴訟に関して、新たな事実が[中西先生の雑感に掲載されている。
 原告は、次のように訴え続けている。

  • 「環境ホルモンは終わった、今度はナノ粒子の有害性を問題にしようという意味である」という中西が書いた記事によって、「研究対象を短期間で次々と変更する」ような学者という印象を与えた(訴状)、
  • 「研究者としての基本的スタンスを節操なく変える学者である」(準備書面(3))かのような誤った印象を与えた、
  • 「研究継続の必要性を内外の研究者はもちろん、広く一般市民にも訴え続け」た松井さんにとっては、「日頃からの原告(註:松井さん)の発言や信条と全く相反する発言を行ったかのように」(準備書面(2))記載された、

そのことによって社会的評価を低下させた、というものである。

 研究者として基本的スタンスを節操なく変える学者であるとの謝った印象を与え、社会的評価を被告が低下させたと。ところがである、

平成17年度採択課題として、松井さんの「ナノ素材の毒性・代謝機構とその環境影響評価」があった。つまり、松井さんは平成17年度、「ナノ素材の毒性機構と環境影響評価」の課題で研究費を受けて研究を始めている。
とても信じられないことだが、本当だ。平成18年度も採択されているかもしれない。

 松井氏は、印象ではなく、実際に、研究テーマをナノ素材の有害性に変更している。

松井さんがこれまで書いた文章を借りると、これは「研究対象を短期間で変えている」ことに相当するだろう。訴状や準備書面に書かれている理屈を借りれば、自分がやっていることそれ自体が自己の名誉毀損ということになる。
松井さんは、雑感の記事が「ある印象」を与え、それが名誉毀損だと主張していた。しかし、「ある印象」どころか、それを自分でやっていた。

 つまり、この訴訟で原告が言っている被告の雑感記載内容が、「原告が短期間でテーマを変更している」という誤解を生み、原告が著しく傷つけられたという主張を短期間かどうかは分からないが、実際に松井氏がやっていることになる。

こういう形で提訴することが無茶苦茶で非道なことだということを、4人の弁護士も気付かないのだろうか?気付いていても、ともかく中西は敵だからやっちゃえみたいになるのだろうか?
敵と言っても、私はダイオキシンのリスクの大きさや管理の方法で異なる意見を出しているにすぎない。少なくとも私は松井さんを敵とは思っていなかった。
だからこそ、シンポジウムの発表者として来て頂いたし、松井さんが代表を務める科研費研究の主査も引き受けたのであり、私どもの研究プロジェクトが主催した研究講演会、シンポジウムに講師として招待したこともある。

 弁護士達がどういった理由で代理人を引き受けたのか、未だわからない。昨日書いた推測が何か当たっていそうな気もするけれど。

件のシンポジウムは2004年12月に開かれた。この研究課題が採択されるか否かの審査期間中だった。あの新聞記事のスライドが出たことの理由が分かる

 ここがポイントだろう。シンポジウム時点は審査中であり、ナノ材料の有害性にテーマを切り替えたことを環境ホルモン学会の方々にまだ伝えたくなかった。

こういう状況でなぜ、訴訟に持ち込んだのだろうか?準備書面(2)を読むとよく分かる。
“その(註:環境ホルモン)研究継続の必要性を内外の研究者はもちろん、広く一般市民にも訴え続け、「環境ホルモン学会」の副会長という地位にもある原告にとって、日頃からの発言や信条と全く相反する発言を行ったかのように記載されることは、研究者としての原告の信用や社会的評価を著しく低下させるものであることは当然である。”
松井さんは、自分がナノの有害性研究を始めていた。そのことが伝わり、環境ホルモン研究者から非難されることを畏れ、自分は今でも環境ホルモン一筋であると証明するために、私を訴えた。それでよく分かる。謝罪文を、環境ホルモン学会の会員しか読まないクラス通信のようなニュースレターに掲載するように求めたことが。

 ここで、一つ疑問が残る。訴訟を起こした2005年3月時点でも研究テーマは審査中だったのだろうか。審査中だったのであれば、プレスリリースを急ぎ、社会的ダメージを早急に与えるといった方法をとったことに、非道だと思うが納得がいく。
 ただ、この論理展開はもともとおかしい。なぜなら、自分がシンポジウムで種をまいてしまったのだから。そして、このシンポジウムが環境ホルモン学会主催だったのだから。発表を効いていた学会メンバーは、原告がナノ素材にテーマを移そうとしているのだろうことは容易に推察出来たはずだ。中西先生は、発表の仕方のまずさを指摘したのであって、原告のテーマ変更はどうでも良かったはずである。そう考えると、原告は、この訴訟をおこなうことで、さらに、自分で自分の首を絞めていることになる。ここまでわかってくると、やはり早めに訴訟を取り消した方が原告のためだと思う。