産業技術総合研究所 化学物質リスク管理研究センターセンター長 中西準子
化学と工業| Vol.59-April 2006より
以下は要約です。詳しい内容に関しては原文をお読み下さい。
ナノ物質/粒子の定義
ナノ物質の定義は少なくとも1 次元が100 nm 以下(しかし、100 nm を超えても一概には排除しない)というものである。この定義に従えば、大きさの点では、ディーゼル排気微粒子(DEPs)もアスベストもその一部はナノ粒子である。
安全性議論の広がりと問題点
サイズが小さいがための影響と言われるものが、真にサイズのみに依っているか否かについては、まだ検討の余地がある。
使用量が多いのは、酸化亜鉛、酸化チタン、今後かなり伸びそうなのがフラーレンカーボンナノチューブ(CNTs)であり、これらが当面リスク議論のターゲットになるであろう。
リスク評価のための測定と試料の調製
ナノ材料の有害性試験の際に最も重要なことは、試験試料のサイズ(分布)、形状、比表面積、不純物などの物理化学的特性を同定し(これを、キャラクタリゼーションと呼ぶことにする)、それらの特性と生体反応との関係を明確にすることである。
ただ、その前に、ナノ材料のサイズとは何かを決めること、及び一次粒子を得る方法を見つけることが測定そのものよりも難しいという状況がある。
筆者は「リスク評価の立場からは、ある程度分散した状態でも試験する必要がある」と考えている。
視点の違い─リスク評価と技術開発
その理由は四つある。第1 は、リスク評価では10 万分の1 程度の確率を問題にしなければならないこと、第2 は、ナノ材料はプラスチックに練り込む際には有機溶媒や界面活性剤で分散させていること、第3 は、ナノ材料の含まれる製品の製造、使用、消費、廃棄またはリサイクルの過程で、人が分散状態のナノ材料に暴露される可能性を否定できないこと、第4 は、同じナノ材料でサイズ効果を調べたいことからである。
目標は同じ─リスク評価と技術開発
ナノ材料がこれまでと全く異なる機能を追究するのであれば、有害性も全く新しい可能性がある。新技術のリスク評価は開発技術の中味に精通している人が入らなければできなくなる。今後、このリスク評価という仕事の相当部分を、技術開発部門が何らかの形で担う覚悟が必要なのではなかろうか。

国際的な規制論議への備えが必要
すでにOECD などで規制の議論が進んでいる。早めにリスク評価を進め、データが不十分な段階でも、他の国々にも納得してもらえるような合理的な管理方法を提案することが急がれる。
研究や技術は、その新しさや利便性だけに目を向けるだけでは不十分で、社会の支持を得るための研究の必要性を説き、新しい方向性を示す必要がある。社会の理解を得るために、何よりも必要とされるのはリスク評価だと思う。