WHO刊行「BSEの脅威について理解する」⑥

4. BSE流行の起源から

 BSEの流行は英国で始まった。英国では1970年代から発生していたと思われる。BSEの際立った特徴はその大変長い潜伏期間にあり、期間は平均して4〜5年である。この間、動物は完全に健康に見える。最初のうちはこの感染した牛が健康を保っていた長い潜伏期間が、実際の流行の広がりを覆い隠していた。さらにBSEの症状が本格的に現れても、それが別の何かの病気を疑わせるものであることから、BSEは1986年まで新しい病気として認知されなかった。それまでの間に感染したものの多くが症状の現れない潜伏期間にあったため、病気が広まり、爆発的流行をもたらす結果となった。

 BSEの流行は、英国で1970年代から発生していたと思われる。BSEの際立った特徴はその大変長い潜伏期間(平均して4〜5年)にある。この間、動物は完全に健康に見える。最初の内は長い潜伏期間が、実際の流行の広がりを覆い隠していた。さらに症状が本格的に現れても、それが別の何かの病気を疑わせるものであったため、1986年まで新しい病気として認知されなかった。このことが、英国で爆発的流行をもたらした。

牛のと体の再利用:破滅への道−実証済み
 BSE出現の原因は不明のままではあるが、その流行の致命的な原動力になったものが何であるかは明らかである。牛を宿主としたBSEの定着、そしてその結果として起こった流行と、牛の飼料製造工程における、牛や他の反芻動物のと体から回収された肉骨粉の利用とは、明らかに関連している。
 肉骨粉を原料とした飼料はと体残さ処理工程(レンダリング)によって生産される。周知のようにレンダリングの際に用いられる温度は、BSEの病原体を完全に不活発化できるほど高温であるとはいえない。さらに、レンダリングは大量の動物のと体残さを一緒にするので、その中の一頭でも感染していれば全体が汚染されてしまう。この場合病原体は広範囲にわたって広がる可能性がある。加えて、感染した牛の残さが他の牛に餌として与えられるときには、感染の危険性を低下させるような動物種間の壁は存在しない。
 BSEの感染は牛が病原体に汚染された肉骨粉を摂取するときに起こる。一説によればBSEの流行は、乳牛が子牛の時にスクレイピーに感染したヒツジから取った組織を含む餌を与えられた時に始まり、感染した牛が再利用され餌として他の牛に与えられた時に拡大していったとのことである。ほんの微量の病原体、つまり感染した牛の1グラムほどの脳でも感染を引き起こすには十分なのである。
流行の原動力となったものが、病原体に汚染された肉骨粉飼料の使用であることは明らかである。

 BSE出現の原因は不明のままではあるが、その流行の致命的な原動力になったものが何であるかは明らかである。BSEの流行と牛の飼料製造工程における肉骨粉の利用とは、明らかに関連している。
 肉骨粉を原料とした飼料はと体残さ処理工程(レンダリング)によって生産される。レンダリングの際に用いられる温度は、BSEの病原体を完全に不活発化できるほど高温であるとはいえない。さらに、レンダリングは大量の動物のと体残さを一緒にするので、その中の一頭でも感染していれば全体が汚染されてしまう。加えて、感染した牛の残さが他の牛に餌として与えられるときには、感染の危険性を低下させるような動物種間の壁は存在しない。
流行の原動力となったものが、病原体に汚染された肉骨粉飼料の使用であることは明らかである。

 飼料の原料として動物のタンパク質を再利用し始めたのは、少なくとも1920年代にさかのぼって考えられる。それは牛乳生産を高め、体重増加を図る安価な方法として導入された。今までレンダリングは、廃棄されるはずの栄養物質を利用する効率的な方法と見なされてきた。反芻動物の残さを餌として反芻動物に戻すということにより、危険が発生するのだが、この方法で何十年も何も起こらなかったため、変わることなく作業が続けられてきた。一度何かが起こると、非常に高い確率で急速に問題が生じはじめた。
感染したウシの1グラム以下の脳、一粒のコショウほどであっても、感染を引き起こすには十分である。

 飼料の原料として動物のタンパク質を再利用し始めたのは、1920年代頃と考えられる。牛乳生産を高め、体重増加を図る安価な方法として導入された。今までレンダリングは、廃棄されるはずの栄養物質を利用する効率的な方法と見なされてきた。この方法で何十年も何も起こらなかったため、変わることなく作業が続けられてきた。ところが、一度何かが起こると、非常に高い確率で急速に問題が生じはじめた。
感染したウシの1グラム以下の脳、一粒のコショウほどであっても、感染を引き起こすには十分である。

レンダリング:必要不可欠な公共サービス−レンダリングは動物の大量生産と消費によって生じた残さをいかに安全に廃棄するかという環境の面での重要な課題に対して、その問題を経済的、効率的に処理する方法として100年にわたって行われてきた。レンダリング過程では、主に脂肪、骨、獣皮、腐肉の形状をした動物性廃棄物がすりつぶされ、一定時間高温で溶かされる。タンパク質は脂肪の層の下に沈殿する。これらの生産物はその後回収され、様々な商品の原料として利用される。脂肪、タロウ、グリースは吸い取られ、潤滑油や口紅、石鹸、ろうそく、薬品、インク、セメントに至るまで幅広い製品に利用される。さらに底にある比較的重いタンパク質も加工、再利用され、主にペットの餌用である高カロリー補助食品として用いられる。
 経済的価値は別にしても、レンダリングは必要不可欠な公共サービス的役割を果たしている。つまりそれは、通常の廃棄方法では危険が大きすぎる廃棄物を環境上処分することである。例えば、動物と同様ヒトにも感染を引き起こす病原体が増殖する場合、動物廃棄物がその格好の条件を提供することがある。焼却処分にすれば、大気汚染の主な原因となる。埋め立ては病気の感染につながる。これに対して、レンダリングは廃棄物を殺菌することになる。高温で行えばほとんどの感染病原体を死滅させることができる(ここではBSEの病原体は顕著な例外である)。ひとたび乾燥、凝縮した形態にレンダリングしてしまえば、その物質は焼却を行うことよってより一層殺菌されることになる。焼却は汚染の広がりに対抗する補助的な予防策としての役割を果たすのである。
 もうひとつの問題は、純然たる廃棄物の量である。ヒトは一匹のウシの半分、ブタの3分の1も消費していない。EUだけでも、レンダリング産業が年間9百万トンの動物廃棄物を扱っている。これらの再利用法は、せいぜい土に返すぐらいしかない。

必要不可欠な公共サービス−レンダリングは動物の大量生産と消費によって生じた残さをいかに安全に廃棄するかという環境の面での重要な課題に対して、その問題を経済的、効率的に処理する方法として100年にわたって行われてきた。レンダリング過程では、主に脂肪、骨、獣皮、腐肉の形状をした動物性廃棄物がすりつぶされ、一定時間高温で溶かされる。タンパク質は脂肪の層の下に沈殿する。これらの生産物はその後回収され、様々な商品の原料として利用される。脂肪、タロウ、グリースは吸い取られ、潤滑油や口紅、石鹸、ろうそく、薬品、インク、セメントに至るまで幅広い製品に利用される。さらに底にある比較的重いタンパク質も加工、再利用され、主にペットの餌用である高カロリー補助食品として用いられる。
 レンダリングは必要不可欠な公共サービス的役割を果たしている。例えば、動物と同様ヒトにも感染を引き起こす病原体が増殖する場合、動物廃棄物がその格好の条件を提供することがある。焼却処分にすれば、大気汚染の主な原因となる。埋め立ては病気の感染につながる。これに対して、レンダリングは廃棄物を殺菌することになる。高温で行えばほとんどの感染病原体を死滅させることができる(ここではBSEの病原体は顕著な例外である)。ひとたび乾燥、凝縮した形態にレンダリングしてしまえば、その物質は焼却を行うことよってよりいっそう殺菌されることになる。焼却は汚染の広がりに対抗する補助的な予防策としての役割を果たすのである。
 もうひとつの問題は、純然たる廃棄物の量である。ヒトは一匹のウシの半分、ブタの3分の1も消費していない。EUだけでも、レンダリング産業が年間9百万トンの動物廃棄物を扱っている。