物理法則は原子に関する統計に基づくものであり、近似的なものにすぎない

E.シュレーディンガー著「生命とは何か―物理的にみた生細胞 (岩波新書 青版)」からの要約。

 原子はすべて、耐えずまったく無秩序な熱運動をしている。この運動が原子自身が秩序正しく整然と行動することを妨げ、少数個の原子間に起こる事象が何らかの判然と認めうる法則に従って行われることを許さないからだ。
 莫大な数の原子がお互いに一緒になって行動する場合にはじめて、統計的な法則が生まれて、これらの原子「集団」の講堂を支配するようになる。その法則の精度は関係する原子の数が増えれば増えるほど増大する。
 生物の生活において重要な役割を演じている物理的・化学的法則は、すべてこのような統計的な性質によるもの。

 原子は、絶対温度以外では、熱エネルギーを持つため、必ず熱運動をしている。もし、単一の原子、例えば、ヘリウムガスのような場合、本当に1個しか原子がないとすると常温であれば、まったく無秩序に動き回っていることになる。しかし、集団でヘリウム原子が存在し、空気などの他の分子や原子が同時に存在している場合、ヘリウム原子の集団は他の酸素や窒素などの原子や分子とぶつかり、その方向をランダムに変えることになる。その時、他の原子や分子の濃度が一定でなく、ある方向に偏りがある場合、当然濃度の薄い方にヘリウム原子は拡がっていくことになる。なぜなら、他の原子や分子にぶつかる確率が低いため、濃度の薄い所に集まりやすいのだ。これは、拡散であるが、これらの物理的法則は、ある一定以上の原子の集合体において初めて成り立つ統計的な性質である。

前回までのE.シュレーディンガー著「生命とは何か―物理的にみた生細胞 (岩波新書 青版)」からの要約