生物体の働きには正確な物理法則が要る

E.シュレーディンガー著「生命とは何か―物理的にみた生細胞 (岩波新書 青版)」からの要約。

 脳およびそれに付随した感官系のような器官は、それに物理的な変化が行われる状態が、高度に発達した思考と密接に対応するためには、なぜ必ず莫大な数の原子から成り立っていなければならないのだろうか?かかる器官のこのような任務が、この器官の全体としてあるいは環境と直接に相互作用する末梢部分の一部において、外界からくるただ一個の原子の衝突に対して反応を示しその影響をとどめるに足るほど精緻で敏感な仕掛けになっていることと両立しないのは、一体如何なる根拠によるものなのか?
 その答えは、(1)それ自身秩序正しいものであること(2)ある一定度の秩序正しさを具えた知覚あるいは経験のみを対象とし、そのような素材のみに適用されること、である。
 このことから、二つの結論が引き出される。第一に一つの物質組織が思考と密接に対応するためには、それは非常にきちんとした秩序でなければならない。このことは、その中で起こる事象が高い精度で物理的法則に従うべきことを意味している。第二に、われわれの思考器官と外界との間に起こる相互作用自身もまた一定の精度まで、厳密な物理的法則に従わなければならない。

 太陽からの光、いわゆる電磁波に我々は常に曝されている。このエネルギーによって影響を受け、常に体が変化するとなると、現在の体を維持することは難しくなる。ある一定量の電磁波を受けた場合に反応できるようにするには、そこに秩序正しさが必要だ。そして、その秩序正しさというのは物理法則に他ならないと著者は言っている。

前回までのE.シュレーディンガー著「生命とは何か―物理的にみた生細胞 (岩波新書 青版)」からの要約