藤原正彦著「国家の品格」新潮新書

国家の品格 (新潮新書)
 まず、目次。

第1章 近代的合理精神の限界

  • 全ての先進国で社会の荒廃が進行している。その原因は、近代のあらゆるイデオロギーの根幹を成す「近代的合理精神」が限界にぶつかったことにある。

第2章 「論理」だけでは世界が破綻する

  • 「論理を徹底すれば解決できる」という考え方は誤りである。帝国主義でも共産主義でも資本主義でも例外はない。「美しい論理」に内在する四つの欠陥を指摘する。

第3章 自由、平等、民主主義を疑う

  • 自由と平等の概念は作り上げた「フィクション」である。民主主義の前提条件、「成熟した国民は永遠に存在しない。欧米社会の前提を根底から問う。

第4章 「情緒」と「形」の国、日本

  • 自然への感受性、もののあわれ、懐かしさ、惻隠の情・・・・。論理偏重の欧米型文明に変わりうる、「情緒」や「形」を重んじた日本型文明の可能性。

第5章 「武士道精神」の復活を

  • 鎌倉武士の「戦いの掟」だった武士道は、日本人の道徳の中核をなす「武士道精神」と洗練されてきた。新渡戸稲造の「武士道」を繙きながら、その今日性を論じる。

第6章 なぜ「情緒と形」が大事なのか

  • 「情緒と形」の文明は、日本に限定するべきものではない。そこには世界に通用する普遍性がある。六つの理由を挙げて説く、「情緒と形」の大切さ。

第7章 国家の品格

  • 日本が目指すべきは「普通の国」ではない。他のどことも徹底的に違う「異常な国」だ。「天才を生む国家」の条件、「品格ある国家」の指標とは。

 目次の中に各章の要約があり、これを読めば著者の主張はほとんど分かるようになっている。補足すると
 第2章の「美しい論理」に内在する四つの欠陥とは、①論理には限界がある。②最も重要なことは論理で説明できない。③論理には出発点が必要。④論理は長くなりえない。
第六章の「情緒と形」大事な六つの理由。①普遍的価値がある、②文化と学問の創造に欠かせない、③国際人を育てるのに必要、④人間のスケールを大きくできる、⑤人間中心主義を抑制できる、⑥「戦争」をなくす手段になる。
 全体的に飲み屋で親父が話しているような雰囲気の本。決めつけ部分が多い。著者は、数学者なので恐らく論理展開は得意中の得意だと思う。従って、意図的にこういう語り方をしていると思われる。
 著者が主張する、今、市場原理主義や民主主義の限界に来ているという主張はその通りだと思う。このまま、アメリカ方式でグローバル化が進むと大きな問題が起きるだろう。また、武士道精神に解決のヒントがあるという主張も分かる気がする。しかし、武士道精神だけで物事が解決するとは思えない。それと、端々にちりばめられている欧米批判の根拠が乏しい。アメリカ文学に優れた物がないような書き方、欧米人は故郷を思う気持ちが薄いといった主張は、根拠が欠けている。この本がベストセラーになっている理由を考えてみたのだが、よくわからない。そして、この本を他の人に薦めるか問われたとき、「いいえ」と答えてしまうだろう。